『挫折だけが人生さ』と言うような中年男が感じる、故郷への慈しみを発信します。


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  白い夕日

1ヶ月も過ぎると3畳一間の生活にも慣れた。雪に焼けた肌の色が薄くなるにつれ、鷺宮の街を歩いていても、私が浮いていると言う感じはしなくなった。洋品店のショウウインドウに映る姿は、校章も眩しい東京の高校生である。髪もスポーツ刈りにした。髪が一気に伸びるものなら、七三にでも分けたいところだが、裾を刈上げるのが精一杯である。坊主頭は目立った。私のクラスでは勿論私一人である。田舎では坊主頭は当たり前で、髪を伸ばしている生徒など見たくても見れなかった。私は坊主頭と言うだけで、結構注目を浴びたものだ。
 人懐っこく話しかけてくるクラスメイトがいた。何で東京に出て来たのか。どこに下宿しているのか。私立探偵のように私の素性に興味を示す。暫くすると、夏休みに私の田舎に遊びに行ってもいいかと言う。いかにも都会的な少年である。そう言えば、彼は新入生代表で入学式に挨拶をした生徒である。私はその挨拶を聞きながら、彼が入試の一番かと思った。体はさほど大きくないが、落ち着いていて一見しただけで、いかにも頭脳明晰と伺い知れる。程なくして、彼も私と同じ高校を失敗していた事を聞き、急速に仲良くなった。
 授業が終わると私は寄り道もせず、3畳一間に戻った。シマラヤスギの老木に囲まれた校舎を出て、駅まで歩く。入学式が済んで1週間も過ぎると、同じ道順の仲間が出来た。鷺宮駅を使うクラスメイトがいた。彼は山梨県から出てきて、大学生の兄と一緒に住んでいると言う事だ。田舎者同士で、最初の1月は殆んど彼と一緒に帰った。しかし、お互いに東京に慣れ、新しい仲間が出来ると、山梨の彼とは一緒に帰る事も少なくなり、私は一人で下校することが多くなった。
 私が下宿に戻ると、大概は長女が帰宅していて、玄関は開いている。ただ今と声を掛けると、奥からお帰りと彼女の声がする。私は急な階段を上がる。造りが悪いのか、ギシギシと脳裡に響く音がする。声など出さなくても、私が帰ったことは解るのだが、何故か彼女の声を聞くとほっとする。私が最初に戻った時は、鍵置き場から鍵を取り出し、玄関の戸を開ける。誰もいない家の空気は何故か重たい。3畳一間への階段が余計狭くて急に思える。暫くすると自転車のベルが鳴る。そして、長女が帰ってくる。
 一休みすると夕食の準備である。私は総菜屋に出かける。家の西側には空き地がある。キャッチボールが出来るほどの広さだ。芝でも植えていたのか、所々に色のない裸の茎が絡み合っている。空き地を抱くように2階建てのアパートが建っている。屋根の上には夕暮れの空が見える。太陽が屋根の下に沈もうとしている。4月の空はぼんやり霞み、夕日が白い。

 2006/07/31

 01 手作りのホームページへ
 02 3通のメール
 03 エナメルの上履入れ
 04 母の入院
 05 3畳一間
 06 母を見舞う
 07 牛乳とクリームパン
 08 家紋
 09 下宿先は
 10 一喜一憂
 11 電報
 12 根無し草
 13 中野区鷺宮
 14 梅雨の最中
 15 夏日
 16 ハムエッグ
 17 それぞれのメール
 18 雨の翌日

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